May 20, 2004

帰還

私たちがブランチを食べていると夫が帰ってきた。
「早かったわね」
「うんうん」夫は気もそぞろにコーヒーを飲んだ
「で?」
「ペット博にはすごく沢山ネコがいた」
「で?」
「ペットショップにはアメリカンショートヘアーがいた」
「ふーん」
「アビシニアンはいなかった」
“やっぱりね”私は急激に興味を失ってパンを小さくちぎっていた。ネコのいる生活も素敵だったかも・・・
「ネコ買ったの?」娘が身を乗り出してきた。
“買うわけないじゃない・・・”いいかけた言葉を飲み込んだ。夫の目がきらきらしていたのだ。
「うん」夫は胸を張っていった。
「うんって、いなかったんでしょ?!」私の目は20度つりあがった。
「いなかったけど、取り寄せOKだった」
「見ずに買ったの?!」30度つりあがった。
「あのね、4月の最初に生まれたばかりで、雌のルディで、名古屋のブリーダーにいるって、父親はチャンピオンだって」
チャンピオンだろうとルディだろうとレッドだろうと大切なペットを見もしないで買うなんて・・・そう思ってにらみつけた夫の顔はとても幸せそうだった。出かけたときと同じ小学生の顔だ、幸せと光に満ちた小学生の顔・・・
そこに大きな欠伸をしながら息子が起きてきた。
「何かあったの?」
私は満面の笑みを浮かべて言った。
「ネコが来るの」

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May 18, 2004

旅立ち

「じつはね」
さっきまで読んでいた新聞の山から夫はおもむろに一枚のチラシを取り出した。
ペット博のチラシだ。しまったその手があったか!!
「それペット博でしょ、販売ないんじゃない」
「いやペットショップも出店してるし・・・」
「ふーん」そういって夫からひったくったチラシには幾つかの出店するペットショップの宣伝が・・・そうかそうか、ポメラニアン・シェルティ・ゴールデン・・・・なあんだ犬ばかりだ。
「いや、あのねネコも販売ありって書いてあるんだよ」
夫は不審気な私を先回りしていった。
なるほどちらしの隅には“ネコもあり”と小さく書かれていた。
だいたい以前から犬に比べてネコの扱いは小さい。CMでくーちゃんがもてはやされてからはなおさらだ。
映画でもいつもネコは悪役、犬は人間の良き友だ
(映画のキャットアンドドッグはひどかった)
「明日いっていいかな」
夫はもうそわそわと落ち着かない。
どうせネコはほとんど販売されていない・・・いてもアメリカンショートヘアーかヒマラヤン。
郊外のホームセンターのペットショップでもアビシニアンはみたことがない・・・よしよし
「いいわよ」私は自信を持って返事した。

次の日、目をさますと夫はもう出かける準備をしていた。
「早く出かけないと売り切れちゃうから」
遠足当日の小学生の目をした夫が言った。
「誰か一緒に行くかな」
形だけ誘ってみたが早く行きたくて仕方がないのはみえすいている。
相変わらずソファによこたわりiBookでのチャットにご執心の娘は、片手をひらひら振ると“行かない”と顔も上げずに言った。
“やっぱりね”と私が大きな欠伸をしていると、夫は風のように出て行った。

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冒険の予感

それは1年前の4月も終わりのとある休日
寝そべっていつになく熱心に新聞を読んでいた夫が急に顔を上げていった。
「猫を飼う」
するとそれまでソファで同じように寝ころんでiBook に熱中していた娘が「猫を飼う、猫を飼う」と言い出した。
お利口な私はかまわず食洗器にお皿を入れていたが、かれらのお経のような「ネコヲカウ、ネコヲカウ」は収まらない。とうとう私も口を開いた。
「あのね、一体誰が猫のお世話をするの?」
「私がする」と娘がニコニコしていった。
「僕がする」と夫がくいついた。
嘘をつけ、あなた達の飽きっぽさはこの私が誰よりも知っている。
ジャズギターをすると言って買ったギターは1ヶ月で3階の倉庫へ、これかわいいと言ってねだったアロマは1週間で箱のままゴミ箱へ・・・どうしてそんなところが親子似るかなあ。
「1年たったらいいって言ったじゃない」いつの間にか椅子に移動した夫がコーヒーを飲みながらいった。素早い奴め・・・そういえばそんなこと言ったっけ。
1年前新居に越した際、夫は急に猫を飼うと言い出した。1年後なら・・・ととっさに言ったのは飽きやすい夫の性格を見越してのこと・・・まさかまだ覚えているとは、執念深い奴。
「でもアビシニアンなんてどこにもいないわよ」
この街のどこにアビシニアンがいるというのか。
1年前、夫は「猫・猫」と大騒ぎし、インターネットや本を買い込んできては「シンガプーラもいいけどやっぱりアビシニアンだよね」などと私に秋波を送っていた。
「いればいいの?」
「いても駄目」
「1年たったらいいって言ったじゃない」
まるで子供だ、なんで男はいつまでもこんなに子供なんだ・・・
「ね、いいでしょ猫飼って・・・」
とうとう私は根負けした
「いいわよ、アビシニアンなら」
そうそうアビシニアンがいるものか・・・きっとそのうちあきらめるに違いない。
そのとき夫の目がきらっと光ったのを私は見逃さなかった。
「いいんだね、アビシニアンなら」
不吉な予感がした。

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猫をめぐる冒険

ずっと平和だった我が家に、昨年5月小さな小さな末っ子がやってきた。
まだ生後6週間のアビシニアン・・・この小さな侵入者が冒険の始まりだった。
猫の冒険?
いえいえ・・・猫をめぐる冒険
それはそれはとんでもなく楽しく、意外で、変化に富んだ冒険。
この5月のある日から、私たちの猫をめぐる終わりのない冒険がはじまった。
これは、その冒険のお話・・・

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